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フィリピンのオークションハウスの特徴|手数料・支払い・輸出のルールを日本・欧米との比較

フィリピンのオークションハウスの特徴|手数料・支払い・輸出のルールを日本・欧米との比較

フィリピンのアートを調べていくと、かならず「オークション」という言葉に行き当たります。アモルソロやイダルゴといった巨匠の近年の記録的な価格は、その多くがマニラのオークションで生まれているからです。

でも、フィリピンのオークションがどういう仕組みで動いているのかを日本語で説明したものは、見当たりませんでした。

そこで今回は、フィリピンの4つのオークションハウスの公式の規約や報道を読み込んで、日本やアメリカ、ヨーロッパと何が違うのかをまとめてみました。調べてみると、「フィリピンらしさ」がいくつも見えてきました。

そもそもオークションハウスは、どう動いているか

オークションハウスは、毎日オークションをしているわけではありません。年に数回、「この日に、この作品たちを競ります」という催しを開きます。英語ではこれを sale(セール)と呼びます。日本語の「セール=安売り」とは意味が違って、「競売の回」のことです。

催しには2つの形があります。

会場で競る形。決まった日に会場に人が集まり、競り人(オークショニア)が1点ずつ値段を読み上げ、いちばん高い値をつけた人が買います。電話やインターネット越しに参加することもできます。年に数回の大きな催しは、たいていこの形です。

インターネットだけで競る形。会場はなく、数日から1週間ほどの期間中にウェブ上で入札し、締切の時点でいちばん高い人が買います。比較的お手頃な作品が中心です。

そして各ハウスは、大きな催しに名前をつけています。デパートの「初売り」「夏のバーゲン」のようなもので、毎年だいたい同じ時期に、同じ名前で開かれます。

フィリピンの4つのオークションハウス

所在地

創業

得意分野

年間の催し

León Gallery

マカティ(レガスピ・ビレッジ)

2010年(オークションは2013年〜)

フィリピン近現代の巨匠、歴史資料

会場での大きな催しが年4回(3月、6月、9月、12月)。中でも12月の「Kingly Treasures(王者の宝)」と9月の「Magnificent September」が看板で、記録的な価格はここで生まれます。あいだにインターネットだけの小規模な催し「León Exchange」が年5回ほど

Salcedo Auctions

マカティ(アヤラ通り)

2010年

フィリピン美術、宝飾、デザインなど

会場での大きな催しが年4回。3月と9月の「The Well-Appointed Life(よく整えられた暮らし)」が看板で、6月の「Finer Pursuits」、11月末の「Under the Tree(クリスマス向け)」が続きます。インターネットだけの現代美術・デザインの催し「gavel&block」も

Casa de Memoria

パラニャーケ(ロハス通り)

―

ヨーロッパのアンティーク、絵画、工芸

会場での催しが年4回。回ごとに「ホリデー」などのテーマがあります

Lumena Auctions

セブ(マボロ)

―

フィリピンの巨匠、近現代、アジア美術

会場での催しを不定期に。直近は2026年9月5日

2大ハウスはLeónとSalcedoで、どちらも2010年の創業です。つまりフィリピンの本格的なオークション文化は、まだ15年ほどの歴史しかありません。その短い間に、記録が次々と塗り替えられてきました。

Leónを率いるJaime Ponce de LeónさんはSotheby'sとChristie'sで研修を受けた方、Salcedoを創業したRichie Lermaさんは元アテネオ美術館の館長です。

特徴① 手数料は「一律」で、欧米より安い

オークションで落札すると、落札額(ハンマー価格)に「買手手数料」が上乗せされます。

買手手数料(税込み)

Salcedo Auctions

16.8%(15%+VAT12%)

León Gallery

20.16%(18%+VAT12%と計算が合います)

Casa de Memoria

24.64%(2021年版の規約。22%+VAT12%)

Lumena Auctions

20〜25%(催しによる。税の扱いは未確認)

日本:SBIアートオークション

16.5%(15%+消費税10%)

日本:毎日オークション

16.5%(例示では100万円の落札で総額116万5,000円)

日本:Shinwa Auction

16.5%+消費税(規約2022年版。税込みでは18.15%)

Sotheby's

28%(200万ドル/150万ポンドまで。2026年2月〜)

Christie's

28%(200万ドルまで。2026年9月〜、業界紙の報道による)

フィリピンの手数料は、日本と同じく一律です。欧米の「安い作品ほど手数料率が高い」段階制とは違います。

たとえば1,000万ペソ(約2,600万円)の絵を落札したとき、Salcedoなら手数料は168万ペソ。Christie'sなら280万ペソ相当です。この差は小さくありません。

なお、VATはハンマー価格にはかからず、手数料にだけかかります(Casa de Memoriaの規約に明記。他社の数字もこの計算で合います)。

特徴② 支払いは「3日以内」

ここが、いちばん驚いたところです。

Leónの規約には「請求額の全額を支払い、落札から3日以内に引き取ること」とあります。Casa de Memoriaは5営業日。Salcedoは公式には期限を公表していませんが、2020年3月の催しに参加した人のブログには「3日以内に銀行振込」とありました。

日本のオークションは10日前後、Christie'sは7日。それと比べると、フィリピンはずいぶん急ぎです。

支払い方法も、フィリピンらしさが出ています。Leónは現金、キャッシャーズチェック、送金に加えて個人小切手も受け付けます(決済まで作品は保留)。Casa de MemoriaはクレジットカードとPayPalも可。日本のSBIが「原則、銀行振込のみ。カード不可」なのとは対照的です。

特徴③ 「保証なし」と明記されている

Leónの規約には、こう書かれています。

All items sold do not have any warranty.(売却されたすべての品に、いかなる保証もありません)

Casa de Memoriaの規約も、真贋について「no guarantee」。カタログにも「詳細の確認は買手の責任」とあります。

Christie'sやPhillipsには「5年間の作者保証」があり、日本のSBIでも3年、毎日オークションやShinwaでも1年の真贋に関する保証があります。フィリピンでは、それがありません。

ただし、ひとつ知っておきたいことがあります。Christie'sでも、東南アジアの近現代美術は5年保証の対象外です。偽物だと証明できた場合に、1年以内なら取り消せる、という約束しかありません(Christie'sニューヨーク規約2025年版)。フィリピンの作品は、世界のどこで買っても保証が薄い分野なのです。

だからこそ、下見が大切です。たとえばLeónは、催しの前に1週間ほどの下見期間を設けています。2018年にSalcedoで7,358万ペソで落札されたルナの《スポリアリウム》の習作が、のちに来歴をめぐって論争になったこともありました。自分の目で確かめる、という前提で臨むのがよいと思います。

特徴④ 保証金の考え方がハウスごとに違う

Salcedoは、入札する人全員に返金可能な保証金を求めます。金額は公表されていません(2020年に参加した人のブログでは1万ペソ)。落札しなければ、1週間後に返金されます。

Leónは、20万ペソを超える書面入札(事前に上限額を預ける入札)のときなどに、保証金を求めることがあるとしています。

Casa de Memoriaは保証金の代わりにクレジットカード情報を預け、支払わなかった場合は落札額の10%をペナルティとして課金する仕組みです。

特徴⑤ 落札結果が「公開されない」ことがある

Salcedoの落札結果は、ログインした顧客だけが、2週間後に見ることができます。

欧米や日本のオークションは、終わった直後に結果を公開するのがふつうです。価格の透明性という点では、フィリピンはまだこれからなのだと思います。

特徴⑥ 海外へ持ち出すには「60日前」に申請

これは4軒すべてに共通する、法律のルールです。

フィリピンから美術品を輸出するには、国家文化芸術委員会(NCCA)の許可が必要です。申請は輸出の60日前まで。文化財にあたらない作品には「対象外証明(Certificate of Non-Coverage)」が出ます(手数料は計300ペソ)。

故人となった国民芸術家(National Artist)の作品は「重要文化財」と推定され、国外への持ち出しにはNCCA理事会の決議が必要になります。

つまり、落札してすぐに持ち帰ることはできません。LeónとCasa de Memoriaは「発送や許可は買手の責任」と規約に書いていて、Salcedoは配送の手配を請け負っています。

ここで実務上の問題が出てきます。支払いと引き取りは3日以内、でも輸出の申請は60日前。そのあいだの2か月近く、作品をフィリピン国内のどこかに置いておく必要があるのです。NCCAの手続きに慣れた現地の美術品運送業者に、保管から申請、梱包まで一括で頼むのが現実的だと思います。日本へ運ぶまでの流れは、フィリピンのアートを日本から買う方法にまとめています。

特徴⑦ 作家に5%を払う法律が「ある」

意外だったのが、これです。

フィリピンの知的財産法200条には、絵画や彫刻が転売されるたびに、作家(または相続人)が売上の**5%**を受け取る権利が定められています。作家の生涯と、死後50年まで。

ヨーロッパには同じような権利(追及権)があって、実際に徴収されています。日本には、そもそもこの制度がありません。

この5%は、売主が払うことになっています。しかも対象はオークションだけではなく、画廊や画商を通じた転売も含まれます(版画は対象外)。つまり法律のうえでは、フィリピン国内で作品を転売するたびに、作家への支払い義務が発生していることになります。

ところがフィリピンでは、法律はあるのに、オークションハウスが徴収しているという記録は見つかりませんでした。知的財産庁(IPOPHL)が2024年から作家たちに「権利を行使して」と呼びかけていて、彫刻家のラモン・オルリナさんらが徴収のための団体を準備しているところです。

「法律はあるのに動いていない」。フィリピンのアート市場のいまを、よく表している話だと思います。

記録を塗り替えてきた作品たち

作家

作品

落札額(手数料込み)

年・ハウス

ホセ・ホヤ

《Space Transfiguration》

1億1,212万8,000ペソ

2018年、León

フェリックス・レスレクシオン・イダルゴ

《La Pintura》

7,825万6,000ペソ

2019年、Salcedo

フアン・ルナ

《スポリアリウム》習作

7,358万4,000ペソ

2018年、Salcedo

フェルナンド・アモルソロ

《Under the Mango Tree》

5,767万6,800ペソ

2024年、León

フェルナンド・ソベル

《Ícaro》

4,438万4,000ペソ

2025年、Salcedo

ほとんどが2015年以降の記録です。2026年9月12日には、LeónとSalcedoが同じ日に看板の催しをぶつけ、ソベルの《Saeta 82》が3,120万ペソ、アモルソロの《Tinikling Dance》が3,854万ペソで落札されました。

一方で、現代作家の記録はマニラではなく香港で生まれています。ロナルド・ベントゥーラの《Grayground》は2011年にSotheby's香港で840万香港ドル(当時約4,690万ペソ)。巨匠と歴史資料はマニラ、現代作家は香港、という棲み分けが、いまも大まかには続いています。

画商・オークション関係者の方へ

日本や欧米の業界の方が、フィリピンのオークションに参加するときに押さえておきたい点を4つにまとめます。

支払い3日、輸出60日。この2つの期限のあいだを埋める保管と手続きの段取りが、いちばんの実務課題です。

保証がない。Christie'sでも東南アジアの近現代美術は、偽物と証明できた場合に1年以内なら取消、という約束だけです。来歴(プロヴナンス)の確認は、自分で行う前提で。

追及権5%が法律上は存在する。いまは徴収されていませんが、作家側の団体が準備中です。フィリピン国内で再販する計画があるなら、将来の費用として頭に入れておく価値があります。

価格の透明性は発展途上。Salcedoの結果は非公開(顧客のみ)、ArtpriceなどのデータベースもマニラのSalcedoの記録を取りこぼしています。相場を読むには、両ハウスのカタログと結果を自分で追う必要があります。

よくある質問

Q. 日本からオンラインで入札できますか? LeónもSalcedoもオンライン入札に対応しています。LeónはLiveAuctioneersやInvaluable経由でも参加できますが、その場合の手数料は25.16%と高くなります。外国人の登録に必要な書類や保証金の額は公表されていないので、事前にメールで確認するのが確実です。

Q. 支払いはカードでできますか? LeónとSBIは不可。Casa de MemoriaはカードとPayPal可。Salcedoは公表されていません。基本は銀行送金と考えておくと安心です。

Q. 落札したら、すぐ日本に送れますか? 送れません。NCCAの輸出許可(または対象外証明)が必要で、申請は60日前までです。現地の運送業者に手続きを頼むのが一般的です。

Q. 日本の消費税や関税は? 美術品の原画は関税が無税で、輸入時に消費税10%がかかります。詳しくはフィリピンのアートを日本から買う方法へ。


SEILA

この記事を書いた人 SEILA。フィリピン現代アートを日本に紹介するメディア NIN.DOT を運営しています。Instagram @seila.tokyo 手数料や規約は各ハウスの公式ページと規約(Leónは2025年のセール規約、Salcedoは公式ガイド、Casa de Memoriaは2021年版規約、Lumenaは公式サイト)、法律はNCCAガイドラインと知的財産法の条文をもとにしています。情報は2026年10月31日時点。規約は変わることがあるので、入札前に各ハウスの最新の条件をご確認ください。


【出典一覧】

記述

出典

Salcedo 16.8%、保証金、結果は2週間後にログイン客のみ

Salcedo Auctions 公式ガイド、How to Bid

León 20.16%

Philstar 2026-10-16

Leónの規約(3日、保証なし、20万ペソ、支払方法、保管料)

LiveAuctioneers「Kingly Treasures 2025」規約

Leónの下見期間・カタログの免責

León「Spectacular Mid-Year 2025」カタログPDF

Casa de Memoria 22%+VAT、5営業日、カード・PayPal、保証なし、VATは手数料のみ

同社規約PDF(2021-05-23)、Guidelines、Our Story

Lumena 20〜25%

Lumena Auctions 公式サイト

創業年、創業者の経歴

InsiderPH 2024-11-28(León)、Daily Tribune 2024-11-17(Salcedo)、Wikipedia: Salcedo Auctions

Leónの年間スケジュール

Invaluable: León Gallery、Inquirer 2024-09-04

日本の手数料・支払い・保証

SBI公式FAQ、SBI規約(2025-07-31改定)、毎日オークション「落札後の流れ」、毎日オークション規約、Shinwa Auction規約(2022-08-01版)

Salcedoの支払期限3日と保証金1万ペソ

ブログ「Tina in Manila」2020-03-23(2020年3月14日の催し参加記)※公式情報ではない

Sotheby's 28%

Antiques Trade Gazette 2026-02

Christie's 28%(2026年9月〜)

USA Art News 2026-09-03

5年保証、東南アジア近現代美術の例外、支払い7日

Christie's ニューヨーク規約 2025年4月版(E2、E2(k)、F1)、Phillips NY規約 2026

Ventura《Grayground》840万香港ドル(2011、Sotheby's香港)

The Varsitarian 2011-05-15

追及権5%、生涯+50年(第200条の条文)

NDV Law 2026-01-07、IPOPHL 2024-08-13

追及権は売主負担・画廊経由の転売も対象・版画は対象外

Mondaq 2020-09-02

追及権の徴収団体の準備状況

Context.ph 2026-06-09、Malaya

NCCA輸出60日前、手数料、外国人の書類

NCCAガイドライン2021(4.1条、4.7条)、PNTR: Paintings, drawings and pastels

重要文化財の推定(国民芸術家の作品など)

RA 10066 施行規則(最高裁eLibrary)

記録価格(Joya ほかArtprice順位)

Inquirer 2022-10-27

Amorsolo《Under the Mango Tree》、Luna《Adele della Rocca》

Lifestyle Asia 2024-09-19、Artnet 2024-10-16

Luna《スポリアリウム》習作 7,358万4,000

BusinessWorld 2018-09

Hidalgo《La Pintura》7,825万6,000

Salcedo Stories 2019、Wikipedia: Salcedo Auctions

Zóbel《Ícaro》4,438万4,000

The Diarist 2025-03

Amorsolo《Tinikling Dance》3,854万4,000(2026-09-12)

The Diarist 2026-09-14

Zóbel《Saeta 82》3,120万(2026-09-12)

Philstar 2026-10-16

スポリアリウム習作の来歴論争

Inquirer Lifestyle

2016年の吊り上げ入札をめぐる論争(参考)

Inquirer 2016